パスワードのリセットをリクエストしますか?

AEL事業

2023年度 旭川市立大学・旭川市立大学短期大学部AEL事業 A E L講座 実施報告

2024年01月10日 水曜日 / カテゴリー AEL事業, 旭川市立大学地域連携研究センター

本講座は、大学の両学部共通教養科目である「あさひかわ学」、短期大学部教養科目の「北海道学」で開講している学習単元「自然との共生」の一部を『飛び出せ!北海道学』として一般公開したものです。授業同様に正解を出すことを目的とせず、当日の参加者と一緒に、自分ごととして「考える機会」を提供するというコンセプトで企画しました。

今回は、公立大学となって初めてのAEL事業であり、主催は旭川市立大学地域連携研究センターと旭川市立大学後援会の共催とし、旭川市旭山動物園と公益財団法人知床財団の協力のもと実施しました。

当日の本講座の展開を以下に整理し、実施報告として、ここにご紹介させていただきます。

  1. 日 時:2023年12月3日(日)10時00分〜12時30分
  2. 場 所:旭川市立大学短期大学部251教室
  3. 対 象:市民、旭川市立大学教職員および学生
  4. 演 題:「野生動物との関わりから暮らしのあり方、社会のあり方を考える」
  5. 講演者:山本幸氏(公益財団法人知床財団事業部長・2023年度旭川市立大学短期大学

部「北海道学」特別講師)

坂東元氏(旭川市旭山動物園園長・旭川市立大学短期大学部非常勤講師)

  1. 内容
  • 第1部(講演)

ヒグマなど野生動物との共存の観点から、山本幸氏と坂東元氏に、それぞれ「ヒグマなど野生動物の生態について」「野生動物と人との関係の現状」についてご講演いただきました。山本氏は、まず冒頭で参加者に向けた「ヒグマクイズ」でアイスブレイクを行い、その後、知床でのヒグマ対策の取り組みについてお話くださいました。現在では身近な生き物でもあるエゾシカやキタキツネと人間の関係とはまた違う、別の形での共存を模索している様子が分かりました。坂東氏は、シンリンオオカミの絶滅の歴史やエゾシカ駆除の現状について、また現在、動物園で飼育されているヒグマの「すなすけ」のような野生動物の保護など旭山動物園の取り組みについてもお話くださいました。今回の講話では、コロナ禍での人間の行動の変化が、現在の野生動物の行動範囲の変化にも少なからず影響しており、「動物は人間をよく見ている」ということが分かりました。第1部は、予定時間を越えて約90分間の講演となりました。

 

2)第2部(ディスカッション)

本学の経済学部、保健福祉学部、短期大学部の学生たちにそれぞれが考えた「共存できる暮らし」についてアイディアを用いて発表してもらい、山本氏と坂東氏とディスカッションを行いました。ここでは「人との関係の現状から、共存できる暮らしを考える」をテーマとして、①動物が野生でどのようにくらしているか、②人との暮らしの中でどのような問題があるか(毎日の生活と自然との関わりについて気づいたこと)、③その問題を解決するために私たちはどのように生きていけば良いのか、これら3つをポイントに考察を深めたものを発表してもらいました。参加学生は、この発表に向けて事前に山本氏と坂東氏による約90分間のレクチャーを受けた後、各自がパワーポイント資料を作成するという流れで当日に向けた準備を行いました。以下、4名の学生の発表内容です。

 

・経済学部 経営経済学科 1年生 関口さくらさん

関口さんは、人と動物がそれぞれどのように自然と関わっているのかを考え、そこから人と動物の双方が自然の恵みを受けて生きている​こと、そして自然は人間だけのものではないということが分かり、生き物とのつながりを感じることが私たち人間にとって重要であるとの考えを導き出しました。そのうえで私たちにできることとして、地域の製品を積極的に使用することやそのための産地の表示、そして地域活動の重要性など「地域に親しむ」ということを提案してくれました。

 

・保健福祉学部 コミュニティ福祉学科 1年生 藏敷愛梨さん

藏敷さんは、熊の問題として、①農作物や牛などの被害、②住宅地への侵入、③人に慣れてしまっていること、④食物がないため痩せていることを挙げ、人間の問題としては、①郊外に家を建てていること、②熊の生態領域に侵入していること、③過疎地が増えている実態など、熊と人間の双方の問題状況を整理しました。さらに、熊と人間の関係性の問題を解決する策として、ポスターや講演会などを活用して熊をはじめとする野生動物について知る機会を増やすこと、これまでの意識を変えて過疎地への移住を積極的に行うなどのアイディアを提案しました。

 

・経済学部 経営経済学科 2年生 斉藤有津磨さん

斉藤さんは、動物も人間も互いに相手を知ることが重要であると考え、互いに苦のない世界の実現を提案しました。そこには知床財団の山本氏が言う「正しく恐れること」が基本の考えにあり、発表後のディスカッションでも山本氏からその点について斉藤さんへ質問する場面もありました。

 

・短期大学部 食物栄養学科 1年生 木原歩優さん

木原さんは、高校在学中のヒグマ研究と今年度前期に本学短期大学部で履修した「北海道学」での学びをベースに、人の安全と熊の安全の双方が重要であると考えました。今回、新しいアイディアとして、①熊の嫌いな匂いであるハッカ畑の人里側に電気柵を作る、②ハッカ畑の山側に杭を打つ、③打った杭の中にシカやアザラシの死骸を入れることを提案しました。さらに、これらの目的として、①杭を打つことによって境界線がクマに分かりやすいようにする、②杭の中に動物の死骸を入れることによってヒグマの飢餓を減らし人里に下りてくることを防ぐ、③電気柵を設置し、最悪の場合に備えるといった考えも発表しました。

 

その後、山本氏と坂東氏から4名の学生それぞれへ質問や感想をいただきながらディスカッションを進めていき、全てのプログラム終了までに要した時間は、予定の120分を大幅に超えた約150分間となりました(休憩時間10分を含む)。

 

 

  1. 総括・所感

昨今、北海道のみならず、全国的に人の生活圏でのクマ出没や熊による人的被害・農作物被害のニュースを多く耳にします。そのたびにSNSやTVなどで、当事者となった地域住民と映像から想像力を掻き立てられた人々の「共存」についての考え方の違いが明確に表われました。豊富な自然環境の中で暮らす北海道民の私たちもまた、旭川市内で生活する日常で「自分ごと」として考えるにはほど遠い状況です。そのような中、今回のAEL講座には、旭川市内や近郊の方々を中心に道外からも参加申込をいただき、小学生から70代までの約150名が参加しました。講座終了後に参加者から提出いただいたアンケートの回答からも、野生動物と人間の共存について市民の関心の高さが伺えました。また、ご参加いただいた方の約3割が、これまで知床を訪れた経験があるということにも驚かされました。

今回のAEL講座では、学生たちの発表が専門家と市民を繋ぐ役割として大変意義のあるものとなりました。しかしながら、学生の「発表の仕方」については、事前のアドバイスが必要だったかと思いました。また、参加者からは当日の音響や時間配分などに関するご意見も頂戴し、今後の講座等で改善していければと思います。今回、この講座を組み立てるにあたり、質疑応答の時間設定について、事前に講師の方にもご相談して検討して参りました。通常の講座のように終盤での質問受付けでは、第1部の講演についての質問が集中することが予想され、第2部の「一緒に考えていく」という趣旨内容が深まりの無いものになってしまうのでは、という懸念がありました。そのため、本講座では第2部で学生発表に続き参加者からもご意見を頂戴し、会場を交えてディスカッションしていくスタイルをとりました。結果としては、アイディアを発表してくださる参加者はいませんでしたが、「正解を出すことを目的としない」という基本コンセプトのもと進めました。また、冬の時期の開催ということもあり、集客には大変苦労しました。公式SNS等でも周知していただくなど、旭山動物園と公益財団法人知床財団様には、広報の面で多大なご協力を賜り、その効果は非常に大きいものでした。今後は、申込時に参加者の年齢や講座情報を得た媒体について等のデータを収集し、より効果的な周知を行うための対策が必要かと思いました。

今回のように専門的な内容を扱う講座を教育の現場が主催して行うことは、知床財団や旭山動物園がそれぞれの立場や役割で伝えることとは〈別の角度からのアプローチ〉として大変意義があると感じており、今後も「市民と専門家を繋ぐ役目」として実施していければと思います。また、本学には魅力的な授業がたくさんあります。それらを「飛び出せ!○○○○」として一般公開していき、これからも本学に市民が集い、共に学ぶ機会を提供しいくなど、次年度以降もこのような観点でAEL講座を企画していくとよいかと考えます。

 

8.添付資料(アンケート調査実施要領・結果)

 

対 象 者    :講座参加者150名

回 答 数    :83名

有効回答数    :83名(100%) 内訳:Googleフォーム7件、回答紙76件

方   法    :アンケート用紙とスマートフォン(Googleフォーム)の併用

 

アンケート項目:① 本講座に満足しましたか?(大変良かった。良かった、普通、

あまり良くなかった、の4段階から1つを選択)

② ご意見・ご感想があれば教えてください(自由記述)

 

①の結果は、無回答が12名(14.5%)、「大変良かった」「良かった」合わせて71名(85.5%)でした。

以下、②のアンケート回答の自由記述欄から一部抜粋。

 

【50代、公務員・団体職員】 知床の話、ヒグマの話は知らないことが多く、勉強になった。今回のように学生さんが発表するなど、参加できる企画が良いと思うので続けて欲しい。運営スタッフとして学生さんに参加して貰うのも良いかもと思いました。

 

【40代、公務員・団体職員】 講師お二人のお話を聞きに来て良かったなと思いました。講師の方が時間を気にせず話せるくらいの時間を設けても良いのでは。

 

【20代、無職】 このような授業がもっと聞ける機会が増えればいいなと思いました。

 

【9歳、学生】 4名の学生さんの意けんが聞けて、もっと動物のことを知りたくなりました。しれとこにたくさんクマが出ていることを知ってびっくりしました。人がじっくり動物のことを知ったら、動物たちもすごしやすくなると思いました。

 

【20代、会社員】 北海道に住むようになり、動物を目にする機会が増えたことで、どうすれば動物にとっても人間にとっても良いように暮らせるのか考えるようになった。今日は、その問題についてのいろいろな意見が知れて良かった。

 

【70代、その他】 講師のマイクが遠く非常に聞き難かったです。前段で質問と言われても無理なこと。最終段階で質問の時間を取ってほしかった。発言者のマスクについて、皆さんに聞いてもらうために発表するのだから聞かせる工夫をしてほしい。

 

【50代、公務員・団体職員】 かつてないくらいの講座ボリュームでよい!

 

【40代、アルバイト】 今回初めて参加しました。市民が気軽に受講できるようなテーマでこれからも開催されるといいなあと思いました。

 

【60代、無職】 身近なテーマで大変良かった。野生動物との距離・境界等について知ることが出来た。次回の講座にも参加したい。時間が短いのが残念。

 

 

文責:旭川市立大学短期大学部 教授

地域連携研究センター 運営委員(AEL事業 主担当)

椎名 澄子

TOP